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最近の台湾情勢と今年の展望

2006年 5月 4日作成

(財)交流協会台北事務所長・代表 池田 維

 

2006年1月16日、経団連会館にて交流協会維持会員を対象にした講演会において、当協会台北事務所池田所長・代表が「最近の台湾情勢と今年の展望」と題して講演を行った。以下に同講演内容を紹介する。なお、意見にかかる部分は同人の個人的なものであることを予めお断りしたい。>

 

1. 統一地方選挙の結果

最近の台湾情勢と今年の展望ということでお話を申し上げます。

まず、最初に台湾の内政で言いますと、2005年12月3日に統一地方選挙が行われました。その結果、野党の国民党が大勝し、与党の民進党が惨敗するという結果になりました。もともと県知事、市長の数で、国民党9であったものが14に増え、民進党9であったものが6に減りました。

この選挙の争点といいますのは、国内問題、それも狭い範囲の汚職をめぐる問題に焦点が当たりました。民進党はご存じのように行政経験および能力については若干疑問を抱かれることはありますが、従来クリーンな政党であるというイメージの強い政党です。逆に国民党の方が長い歴史があり汚職と無縁ではないというように見られてきました。ところが今回、民進党幹部が関与したとされる高雄の地下鉄工事をめぐる汚職についての報道がこの選挙の大きな争点となり、それが民進党にとって決定的に不利な結果をもたらしました。

特に、タイ人労働者の暴動騒ぎが発端となり、やがて渦中の人物が元々陳水扁総統あるいは謝長廷行政院長の側近であったということが分かり、その人物の行動がネガティブキャンペーンの形でマスコミを通じ選挙直前まで非常に大きく扱われました。  

それに対し国民党の方は、馬英九国民党新主席の新鮮なイメージが、プラスに働いたということが言えるでしょう。ただし、この地方選挙そのものは台湾と中国との間の関係とか、あるいは台湾人のなかで高まりつつある台湾人意識(いわゆる台湾アイデンティティの問題)などとは無縁な選挙でした。従いまして、この2005年12月の地方統一選挙の結果をもって、国民党がこの勢いをもって2008年の次の総統選にまで進んでいくとみるのは時期尚早と思われます。政府・民進党にとっては当然ながら今後の最大の課題はクリーンなイメージを回復するとともに如何にこれから党勢を建て直していくかということです。国民党にとっては今の勢いをいかに持続していくかということが最大の課題です。

民進党側の当選者の数は減りましたが、全体の総得票率で言いますと、かつての45%が42%に減ったということですから、全体の民心ないし、人々の気持ちが民進党からすっかり離れてしまったというようにまで見ることは出来ません。

この地方選挙の大敗を受けて、民主党主席の蘇貞昌氏が潔く全責任をとって辞任しました。そのあと、空席になっていたこの党主席のポストに総統府の秘書長であった游錫氏が選ばれました。今までの游氏の政治経歴から見て妥当な選出であると思われます。今後の内政上の注目点としては、まず2006年末には台北市長、高雄市長という2つの大きな市の市長選挙が行われます。また、2007年末には立法委員選挙が行われます。この選挙は、立法委員の数を半減させ、しかも小選挙区制を採用したあとの最初の立法委員選挙となりますから、未知数の点の多い選挙であり、その選挙結果は2008年の総統選挙の前哨戦としてかなり大きな実質的な意味をもつものになると思われます。そして2008年の3月にいよいよ総統選挙が行われるという順番になります。

 

2.馬英九・国民党新主席

馬氏は国民党のエリート中のエリートであるということが言えると思います。この人の父親は蒋介石元総統の警護担当官だったといわれていますが、本人は国民党の奨学金で若い頃、米国のハーバードに留学したという経験をもっています。クリーンで清新なイメージ、それから映画俳優ばりのハンサムな容貌の持ち主ですから、若い人や女性の間に大変高い支持率があります。しかしながら国民党内の政治的基盤につきましては、いまだ未知数な点が多いと見られています。例えば連戦前主席との関係、王金平立法院長との関係あるいは、馬氏を支えるブレーンの人たちとの関係において、馬氏の党内の基盤がそれほど強固なものであるというようには見られておりません。そういう意味では現在のところ馬氏の人気は個人的なイメージによるところが大きいという特徴をもっています。

今日の勢いが続けば2008年の総統選挙において、馬氏が国民党の有力候補者となることは間違いありません。馬英九氏に対する大きな関心事は、当然ながら、まず同人が今後、中国との距離をどのようにとっていくのかという事です。それから、今台湾において大きな政治問題となっている米国からの兵器の購入問題に対して馬氏あるいは国民党としてどういう態度を打ち出すのかという点です。それから、日本との関係につきましても馬英九氏がどういう対応をとるのかということは大きな注目点です。

最初に中国との距離のとり方です。馬英九氏は外省人です。もちろん外省人のなかにも随分本土化して必ずしもそう強い中国人意識をもっていない人もいますけれども、馬英九氏はハーバードに留学している時に尖閣問題について論文を書いていますが、これを読めば同氏が非常に強い中国人意識をもった人物であるということが分かります。同氏は最近外国人記者とのインタビューの中で、台湾としての最終目標はやはり大陸と一緒になることであるとして、「統一が最終目標」であると明言しています。そういう意味で台湾独立というものに対するはっきりとした反対の意思表示をしています。ただ同人は中国との関係では、非民主的な中国とは統一の話をしないということで、今日の中国との間に一線を画しています。台湾独立に反対しているという点で中国側としては馬英九氏を民進党幹部に比べてより好ましい、と歓迎していますが、他方、馬英九氏に対し一定の不安感ももっているように見受けられます。

それから米国の兵器購入問題につきましては、これまで既に立法院で40数回にわたって国民党側による審議拒否が行われており、少数与党である今の民進党としては、通したい法案も通すことができないという状況です。軍備の問題については後程少し詳しく述べますが、米国としては今台湾の対岸で増強されている中国の軍備増強に対してどうしても台湾側が自衛能力を高める必要があるとの立場をとっています。そして、台湾に対して3種類の兵器を、もし希望するならば売却する用意があるということを言ってきました。それは潜水艦(8隻)、対潜哨戒機(12機)、それとミサイル防衛のためのミサイル(6セット)です。ただし、立法院における審議では、これまで国民党側の反対で予算が全く通らないという状況が続いています。従いまして、米国としては馬英九という人物がこの兵器の購入問題について、どのように野党党首として指導力を発揮することになるのかに注目しています。

それから日本への対応ですが、先程申し上げましたように尖閣についての若い頃の研究論文というのがありますが、それ以外に、歴史認識についての馬氏の対応ぶりにも言及する必要があります。例えば靖国参拝反対、あるいは台湾の植民地時代に起こった対日抵抗運動の評価という点があげられます。日本の植民地時代に台湾において行われた抗日事件としては、霧社事件とか苗栗事件というのがあるのですが、そういう事件のリーダーたちの写真が最近国民党の党本部に飾られるようになりました。これは馬英九国民党主席になってからの新しい事態である、ということで注目されています。ただ、日本の新聞が馬英九氏は「反日的である」という記事をいくつか書きましたところ、本人あるいは国民党は相当にこのことを気にしているとみえて「自分たちは決して反日ではない」ということを新聞に対しても言っています。ただ馬英九氏が最近の日本についてどの程度の理解を持っているのかということについて私たちは必ずしもよく分からない。交流協会台北事務所としては、もう少し馬氏等に最近の日本を知ってもらう必要があるというように考えています。つまり、今の馬英九氏の日本についての発言の多くは、今日の中国大陸が行っている対日批判とほとんど変わりのないものです。60年前、70年前の戦前の日本についてのコメントだけではなく、やはり戦後60年間の日本がどのように平和憲法の下で発展してきたか、今日の日台関係を発展させるために如何なる方策が必要か、などの新しい視点に立った馬氏の見識を伺いたいと思うのは、私だけではないはずです。

以上、見てきたように、現在の台湾の内政状況は与党民進党と野党国民党の双方が2008年の次の総統選挙に向かって烈しくしのぎを削っているというところです。

 

3.中台関係

次に中国と台湾の関係ですが、2005年12月3日の統一地方選挙に負けた後、陳水扁総統はしばらく公開の場に姿を現しませんでした。それは党勢を挽回するために何が必要かを慎重に見極め、策を練るための期間であったと見られています。その結果打ち出されたのが、「積極管理、有効開放」という方針です。これは今までのものとどのように違うかといいますと、2001年以降、陳水扁総統は「積極開放、有効管理」ということを言ってきました。これは大陸との関係をできるだけ開放する、積極的に開放する、そして管理する面は有効に管理するにとどめる、ということだったのですが、今回、それをひっくり返しまして、管理面を積極的に行い、開放については有効に行うにとどめる、と変わったのです。それとともに、2004年の総統選挙後あまり言わなかった「憲法改正、公民投票」の可能性についても今後、時期をみて提出することを検討すると言うようになりました。これはある意味では、民進党本来の「本土化路線」に回帰するものと見ることができると思います。

といいますのは、ここ数年間、台湾の中国に対する経済依存度が急激に高まっています。例えば2004年には貿易総額の24.2%、対外投資の67.2%が中国との関係であります。ただ、数字の面では2005年の台湾の対中投資額は前年比13.45%減で少し下がってきております。これが、例えば許文龍事件のような政治的要因によるものか、あるいは中国に対する投資が一巡したという経済的要因によるものか、必ずしも定かではありません。いずれにしても2005年の対中投資額は対前年比13.45%減の記録を示していますが、貿易・投資ともに、対中依存度が極めて高いレベルにあることに変わりはありません。

それから、政治面で見て2005年春から始まりました国民党と親民党の2野党党首の訪中以降、全体的に政府民進党側は受身に立たされてきました。従いまして「積極管理」スローガンというのはある意味でこれまで受身に立っていたものを攻勢に転じようとする試みであることは明らかです。問題は今後いかにこれを具体化していくのか、どういった措置がとられるのかにかかっていると思われます。その点につきましてはいまだ充分に説明はされていませんし、これから肉付けがされていくということです。

ただ、いずれにしましても野党の党首が訪中をするようになってから、色々な点について野党を通じた話し合いが両岸関係で出てまいりました。例えば野党を通じる中国の攻勢例のひとつとして、パンダの寄贈問題が挙げられます。このパンダの寄贈というのは元々国民党の連戦党首が2005年に訪中した際に中国側が提案したものであり、最近になってパンダのひとつがいを台湾側に送るということを中国側が一方的に決め、発表しました。台湾内でもパンダの受け入れについては2つの考え方があり今のところ結論が出ておりません。ひとつにはパンダは可愛い動物だから受け入れたらいいではないか、という国民党を中心にする考え方。ちなみに馬英九氏自身は動物に色が付いているわけでもないし、共産党員を送ってくるわけでもないのだから受け入れたらいいと、言っていますが、他方、与党民進党の方は、これは一種の統一戦線工作であるといっています。本来パンダは絶滅に瀕した動物ということで、国際条約によると国から国に移動する際には一定の手続きを必要とするということになっています。台湾側からいいますと、勝手に北京が一方的に決めて台湾にパンダを送る、明日用意ができたら明日にでも送ってもいいなどと、言われても困る。台湾側から見ると台湾は中国の統治下にはない、別の国である。別の国にパンダを送るには国際条約に則った手続きが必要であり、それがない限り自分たちとしては受け入れることはできない。そういうことでパンダの贈呈問題についても、今話し合いは進んでいない状況です。

それ以外に、中国人観光客による台湾観光開放ということがあります。これは中国から観光客をどんどん台湾に出したいという話ですが、これも野党を通じて出てきた話です。しかし、台湾当局の側から言えば、ではこういった人たちがもし台湾に来て亡命するということになったらどうするのだ、ということになります。その時はやはり台湾当局が関係しない限り、問題は処理できず、従って、野党を通じた話し合いだけでは限界があるのだ、ということになります。

それから台湾人学生への奨学金優遇措置。中国への台湾人の留学生に対しては奨学金を優遇するという中国側の一方的な提案に対して、陳水扁総統は、少なくとも自分が総統である間は中国で得た学位は、台湾では認めないと言っております。

いずれにしても、これらの課題は、中国と台湾の野党の話し合いから出てきたものです。今回の陳水扁政権の言う「積極管理」はこういったものに対して当局としては一線を画す、そしてこれまで受け身に立っていた立場を逆転させて攻勢に転じる、という動きと見ることができます。中国に対し「積極開放」といっている限りは国民党の考え方と民進党の考え方の間で基本的にはどこに差があるのか分からなくなってしまうわけですが、今後「積極的に管理する」として、対中国引き締め策を取ることに重点を置きますと、その差がより明白になってきます。

今後は恐らく台湾から中国に進出する企業の貿易とか投資について従来以上により詳しい審査を行う、あるいはこれまで、法スレスレで進出したようなものを規制するという可能性があると思います。さらには、台湾企業が大陸に大規模進出し、その結果、台湾の産業の空洞化という現象が起こっていますから、これらの企業がもう少し台湾に帰ってこられるように台湾側の税制を見直すという可能性も検討されているようです。

 

4.台湾ビジネスマンの関心

中台間の貿易・投資の関係について、台湾のビジネスマンたちが、現状をどのように見ているか、という点について一言付言しておきます。2005年11月、台湾で行われました日台の民間人による東亜経済人会議等で議論されていたことは、台湾から中国への投資というものについてはリスクが徐々に高まりつつあり、そのリスクの分散を図る必要があるという点です。そして「CHINA+ONE」という言葉が度々使われておりました。中国以外に今台湾が関心をもっているのがベトナムで、その他インド等にも投資の矛先を向けようという動きが徐々に広まりつつあります。もちろん、前述のように台湾企業の中国依存度は、極めて高いレベルにあり、直ちに目に見えた形の結果に結びつくかどうかは定かではありません。

台湾のビジネス界の人たちと話をすると、中国大陸でビジネス上のトラブルがかなり発生していると言います。一部地域では土地収容の問題であるとか、あるいは労働争議等の社会問題の深刻化に応じてビジネス上のトラブルが発生している。例えば、次のケースは台湾の一部の人の間で良く知られています。ある台湾企業が上海の近郊で10年位前に土地を買収してゴルフ場を造り、その後このゴルフ場の経営はうまくいっていたそうですが、最近になって農地買収時の価格に不満を持つ農民たちが集まってきて、賠償して欲しい、という要求を出してきて困っているというものです。その台湾企業としては進出した当時にすべてをアレンジした地方の役人が農民との間を調整してくれればいいのですが、最近は地方の役人も農民の反発を恐れ、仲介の労をとろうとしないらしい。ではどうやってその紛争に決着をつけるのか。農民たちが過大な要求を出してきたので、裁判所に判断を持ち込むことにしたと言うのです。しかし、この台湾のビジネスマンによれば、今の中国の裁判所というのは相当腐敗しており、裁判所において何が決定的な決め手になるかというと、裁判官に対していくら金銭を出すか、によって決まると言う。もし第一審で不満であれば上級審に訴えることも法制上は可能であるが、上級審にもっていくとさらに金がかかるということが分かって愕然としたということです。これは、台湾企業にとって、一面では中国市場は大きな魅力をもつが、他面ではリスクの大きいものであることも物語っています。

今のゴルフ場の件というのは氷山の一角かも知れません。私自身は中国の経済発展を台湾から見ておりまして全体的に極めて跛行的であるという感じをもたざるを得ません。

中国経済は、1970年代末頃から「社会主義・市場経済」のスローガンの下で発展してきました。政治面での一党独裁を維持しつつ、経済面では限りなく資本主義に近い政策を取ってきました。その間の沿海地方を中心とする経済成長は、華やかな上海の夜景に代表されるように目覚ましいものでした。しかし、今日では、一党独裁と市場経済の間の矛盾が色々なところで構造的なものとして出てきています。そこに貧豊の格差や腐敗、汚職が発生しているということが中国社会の内部問題としては深刻な事態をもたらしつつあります。

この点については中国の公安部長(日本の警察庁長官に当たる)が公式にも認めていますが、一昨年1年間で社会的暴動の件数が7万4,000件あったという。13億人の中で7万4,000件という数が多いか少ないかというのは議論のあるところですが、暴動というのは100人以上が参加した数のことを指すと言っており、10年前は約1万件だったと言っていますから、この数字をそのまま信じるとしても、非常に多くの暴動事件が今日、大陸内部において起こっています。司法的解決が出来ずに農民暴動のような形となって噴出するところに今日の深刻さがあります。

2005年12月、広州近くの汕尾市で発生した農民と警官たちの衝突のケースは特に深刻なものでした。この一件はその場所に発電所を造ろうとして、その農地買収に反対した農民たちが火炎瓶を使ったりして抵抗したことに対し、警官が発砲して恐らく最低20人、多ければ数十人という人たちが死亡したと見られる事件です。その後、この事件についてはマスコミを完全にコントロールすることによって外部には一切報道が行われなくなりました。しかし、こういった事件が今の中国において発生しているということ自体について私たちとしてはよく認識しておく必要があります。

 

5.軍事関係

さて、ここで中台間の軍事関係についてお話しする必要があります。全体として両岸のミリタリー・バランスは、2005年の米国国防省レポートの指摘するように、遂次中国優勢に傾きつつあります。対岸に戦術弾道ミサイルが784基設置されているというのが最新の数字です。1年に約75基から100基位のミサイルが増設されていると見られています。また、中国自身、近代的な戦闘機とか潜水艦、そういったものをロシアから積極的に購入しています。そして、2005年秋には中国とロシアの間で合同の軍事演習が行われました。これも将来の台湾への武力侵攻の可能性も視野に入れた演習と見られています。もちろん中国自身はそれを直接的には認めていませんし、ロシアもそれをはっきりとは言っていません。

これに対しまして、先程申しましたように、台湾側としては米国から兵器の購入をしなければバランスを保てないわけですが、米国からの兵器購入問題については現在野党の反対で進展がみられていない状況です。元々、米国、それから日本もそうですが、台湾海峡の平和を維持するために、なによりも、中台双方の当事者間で話し合いにより平和的に解決して欲しい、と言ってきました。また、現在の現状維持というものをいずれかが一方的に変更することがないようにして欲しいと中台双方に申し入れてきました。一口に「現状維持」と言っても、そこには政治的現状維持も軍事的現状維持もあります。政治的現状維持というのはつまるところ台湾が大陸に統治されていないという、その現状が変わらないということです。ただ軍事的に見て、中国が引き続き軍備を増強するということになると、現状維持といいながら実際には軍事の面で双方のバランスが大きく崩れることになるわけであり、その意味では、私達は単に現状維持というだけではなく、実態がどうなっているのか、特に軍事的現状維持がどのようになっているのかという点もよく注意しなければなりません。

もちろん、台湾海峡を挟んだ中台間のみの軍事バランスを考えることは必ずしも現実的ではありません。一旦、台湾有事の際には、米国は「台湾関係法」に基づき、軍事的対応を検討せざるを得なくなりますし、また、日米同盟に基づき、我が国も何らかの対応を検討せざるを得なくなるかも知れず、単に中台間の問題だけに止まらなくなるからです。

 

6.日台関係

次に日台関係について簡単に申し上げます。特に人的交流の面では、2005年9月我が国が台湾住民に対する査証免除を行ったことが、台湾から日本に来る観光客たちの数を増加させるうえで大きなプラス要因になりました。また日本から台湾に行く人の数も多くなり、2005年は日台双方向で約230万人の往来がありました。台湾側が特に評価したのは、外交関係が無いにも関わらず、韓国にも先がけ、台湾の人たちに対して日本政府が査証免除を決定したという点でした。しかしながら他方、日台間にもいくつかの問題が存在しています。特に そのなかのひとつの大きな問題は日台の漁業関係です。この問題については双方の主張が大きく食い違っているだけではなく、特に尖閣の領有権問題にも関わっていますので、なかなか妥協点を見つけるのが難しい問題となっています。私たちとしては漁業資源の管理という技術的な観点から日台双方が妥協点を見いだす以外ないのではないかということで交渉にあたっておりますが、現在のところ、残念ながら歩み寄りは余り見られていないという状況にあります。

それから台湾の新幹線問題ですが、2005年11月、時速300キロでの走行試験が台湾南部で行われ、私も招待され試乗してきました。この試運転は成功裏に行われました。ほとんど揺れもなく、日本の今日の新幹線と差異がないというくらいのものでした。ただ、2006年10月の開業ということになると、話はそれほど簡単ではありません。いまだに日本側関係者と台湾側関係者の間で意志疎通が充分に行われていないという面が残っています。運転手の養成であるとか、あるいは運転時に何語を使うとか、そういった一見技術的な問題のようですが、これらは安全の問題と不可分に直結しています。このような問題を何とか克服しながら予定通り本年10月末の開業にこぎつけなければなりません。時速300キロの新幹線というのはなによりも安全が極めて重要な課題ですが、そのためにも日台双方関係者の一層の協力が望まれます。

このような個々の懸案はありますが、私自身は近隣諸国の中において台湾ほど日本に対して強い関心と親近感をもっているところは少ないと思っています。植民地時代に日本語教育を受けた人たちの日本語能力、これは疑うべくもなく極めて高いものです。この方たちが高齢になり徐々にいなくなると日本語を話す人達も急速に減っていくのではないかと見られておりましたが必ずしもそうではありません。2005年秋に全世界で行った日本語能力の検定試験というものを自発的に受けた台湾の受験者数というのは台湾全土で約5万人(台湾の総人口は約2,300万人)もいました。5万人というのは大変大きな数です。受験者の人数は中国が1番で台湾の3倍くらいですが、中国の人口は13億人ですからある意味で多いのは当然ですし、韓国が人口比にしてほぼ台湾と同じくらいの数です。あとは米国、オーストラリアといった具合ですが、これはもう何千人という単位です。そういった意味ではやはり台湾における日本および日本語に対する関心はそれだけ強く、同時に日本語を勉強することがビジネスチャンスにも結びついているということです。

 

7.日本にとっての台湾

台湾の今後の行方が日本の安全保障、経済的利益にも深く結びついているということはいまさら申し上げる必要もないと思います。安全保障の面については中国の言い方が一つの参考になります。中国人はよく中国は「第一列島線」というものによって囲まれていると言います。これはアラスカ、アリューシャン、北海道、本州、四国、九州、沖縄、そのあと台湾、フィリピンと続く一連の島嶼によって中国は海洋への出口を塞がれている、という考え方です。従って、中国としては、この第一列島線を突破して中国の潜水艦が太平洋に出て行く必要がある、ということになります。今日の軍事戦略において潜水艦は決定的と言って良い位の重要な役割を果たす艦船です。どこを突破するのが中国にとって最も有利かと言えば、それはやはり台湾なのです。台湾を突破できれば自由に西太平洋に出ていくことができます。しかし今の状況ですと中国の潜水艦が太平洋に向かって移動する際は、浅い大陸棚と一連の島嶼によってその行動が察知されているというのが現状です。台湾の東海岸は、すぐに深海とつながっているため、台湾東部から西太平洋に出るのが最も望ましい。それだけ中国から見た台湾の安全保障上の価値は大きいのです。逆の言い方をすれば日本にとっても、あるいは米国にとっても安全保障上、台湾がそれだけの重要性をもっているということになるのです。

さらには、日本にとっての経済的利益というのは詳しく申し上げるまでもありませんが、やはり中東からの石油を運ぶタンカーがあの海域を通って来るということに象徴されています。それらのタンカーは台湾海峡を通る場合も、台湾島の東側を通る場合もありますが、いずれにしても台湾周辺は日本のシーレーンに直結していると言うことができます。もしこの海域における平和と安定が損なわれることとなれば、それは日本の生命線とも言うべきシーレーンに大打撃を与えることになるでしょう。

最近の中国は日中関係悪化の理由ということで通常、歴史問題に加えて台湾問題の二つを挙げます。つまり、日中関係が悪化したのは、すべて日本側の理由によるものであり、その原因はつきつめると「台湾と歴史問題についての、日本の誤った発言や行動」(2005年12月中国外交部報道官談話)にあると言っています。それだけ中国にとって台湾の意味するものは大きいということです。私自身、中国、台湾と付き合いはじめて40年以上になりますが、中国にとって歴史問題をめぐる争いというのは台湾問題についての実質的な問題性に比べるとさほど大きなものではなく、実体としては台湾問題の方がより核心的な重要性を持つ問題であると考えています。

なお、台湾のGNP全体はアジアでいいますと東南アジアの雄国であるインドネシアとタイを合わせた位の大きさを持っています。それから一人当たりのGNPは1万5,000米ドルくらいですから、先進国のスペイン、ポルトガル並みです。このように台湾の経済規模というのは東アジアにおいて無視することの出来ない大きさを持った存在です。台湾は九州より少し小さい位の面積しかありませんが、これだけの経済的な重要性を持つ以上、将来、東アジアを中心とした共同体のようものが形成されていく時には、台湾の存在を真剣に考慮に入れるのが自然なことと考えられます。

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